すごいやつら
つららではありませんよ。やつらです。
やつら、なんて言ったらいけないのだけど、まあ聞いてやってください。ぼくの棲む山には数々の高木・低木落葉樹、照葉樹、山野草が所狭しと枝を伸ばしていました。そう、過去形なのですが・・・。僕ら家族がこの山に手を加えるまでは荒れていたとは言え、豊かな雑木林だったのです。四季の移ろいに順じ様々な動植物が山を更新させてゆく、そんな営みがとうとうと引き継がれてきたんです。 その営みの中へ突然僕が草を刈り、エンジン音凄まじいチェーンソーを振りばったばったと根を張らせた樹を切り倒すものだから、山はたまったもんじゃないはずです。 お前の思い描く建物配置を実現するために切り倒されちゃたまんないぜ、と樹は叫んでいたかもしりません。 ・・・・・おっと、個人的な感傷に浸るのはやめましょうね。そうそうすごいやつら、の話だった。
のびのびと枝をのばす樹樹達は、みずき・山桜・ほおの木・アカガシ・コナラ・クヌギ・椎・クロガネモチ・ねむ・山椒等々多種にわたりました。それらの樹の枝が密に折り合う所がやつらの住処でした。どんなに強い雨が降ってもそこなら濡れにくいことでしょう。地面から雨の跳ね返りも無い高さです。風の強いときもその太い枝ならそう揺れないだろうし、折れることもないでしょう。そんな絶妙なところに住まう大スズメバチ。あんたがたは賢いよなあ、ほんと。下草を刈っていた時に見つけた大きく美しい巣は径60cmはあったと思います。ただ、感心してばかりもいられないしなあ・・・
どうしたものか幾日か手をこまねいていました。巣が美しいからそのままの状態で取ってしまえないかな、などと考えそれなりの装備を用意したりしました。やるなら夜だな、1時頃はさすがにみんな働き疲れて寝てるだろうから・・・。あれこれ考えながらも、なかなか決行の勇気が固まらずにいたら、ある朝の事、日課になりつつあった巣ウォッチングをしたら無い、巣がない?少し近づいてみると足元に昨日までは無かった、長さ3mほどの竹がころがりすぐ先には落とされて粉々になった巣のパーツがここそこに。明らかにこの竹で突っつき落としている・・・ 誰が?
いまだに誰が犯人か判っていないのですが、今になるとやった誰かはすごい度胸のあるやつだなと、実行できなかった僕は思うわけです。
その、すごいやつよりまだすごいのがいるんです。巣を落とされた日の昼過ぎ、巣のあった枝を通りがけに見上げると・・・・・ある?巣がある。小さいけど確かに、ある。 そうです昨日までとまったく変わらぬあの枝元の同じ箇所に次の巣をもう造り始めているのです。すごいやつらです。完敗です、尊敬しちゃいます。自分が壊された側に立場をおきかえてみると、思い入れたっぷりに建てた家をすぐさま再生できるのか? 出来ません、きっと。うなだれ泣き崩れたまま動けずにいることでしょう。
再生力。僕には到底出来ぬことを自然界では事もなげにおこなうのですね。
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