杉の香りに包まれて
以前初窯用の左馬の篆刻を彫ってくださったT氏。 その技、意匠に感嘆した僕は続けて陶印の篆刻をもお願いして彫っていただきました。 陶印とは、全ての作品に印す自身固有のサインです。 多くの場合作品にはヘラでサインを印し、作品を納める桐箱の箱書きに篆刻印を捺します。 固有とはいっても安易に氏名で使っている文字を用いているので 日本中の陶工とかぶっているでしょうが。
安田の「や」の字の中から気に入った書体を探して決めました。が、恥ずかしながら安田の「安」はひらがなの「あ」に繋がることをT氏に諭され、急遽、日本独自に創り出したひらがなの「や」を強引に陶印へ引っ張り出した次第です。 つまり、音訓の意味を理解していない自分が如実に浮き彫りにされたってわけです。半ば呆れられつつも、快く請けてくれたT氏なのでした・・・。 それから3週間。 T氏作の杉の木箱に納まり、陶印が手元に届きました。

樹齢1000年ほどの杉板を加工して作ってくださったとのこと。 杉とは思えないほどの緻密な年輪、雰囲気たっぷりの木箱です。

彫ってくれた陶印もありがたいのですが、この木箱に納めて贈ってくださることにT氏の美的センスが集約されていると感じずにはいられません。

ひらがなの「や」の大中小。

もひとつおまけに漢字の「安」の大中小。 これを見て、ほんとうに「安」が変じて「あ」になったことを実感できたのであった・・・ おそらく・・・・・そんなことさへ知らなかった僕に、しっかりしなよ!との想いを込めて彫ってくださったのではないか、と感じている自分であります。 トホホのホ。 Tさま、左馬に続き、一生の付き合いになるであろう陶印をこのように彫っていただき誠にありがとうございます。大切に使わせていただきます。
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